私はもともとSM趣向の人間ではなく、プレイ経験もなく、その気もありませんでした。
でも今回、偶然SMプレイの典型である緊縛を体験し、何と言いましょうか、SMの源泉のようなものを見た気がします。SMとは、こうやって始まるんだな、と思いました。
彼女は出会い系ハッピーメールで知り合った24歳のOLです。背がすらりと高く、顔は美形。弓道の経験があるようで姿勢が美しい女でした。
サイト内で惹かれあい交際を始めたのですが、彼女はなかなか体を許してくれませんでした。
「その時期がきたら、私のほうからリクエストするわ」
どこかお高く止まった彼女は、自分がその気にならない限り何もしないタイプでした。
―生意気なやつめ―
とはいえ、彼女とのセックスを心待ちにする自分もいました。多少辛くても、ここは辛抱づよく待つべきでしょう。
そしてデート七回目、やっとラブホに行く約束をしたのです。
私はそのとき、彼女を縄で緊縛してみたいと思いました。
緊縛の経験なんてなく、やりかたも知らないのに、とにかく生意気なあの女を縛り上げてみたいと思ったのです。
デートにでかける私の鞄の中には麻縄が入っていました。
ラブホに入った彼女は、きわめて事務的に動きました。シャワーを浴びてバスローブをまとって部屋内を歩き回る彼女は、かなりラブホ慣れしているように見えました。
彼女がもし女っぽく私に甘えてきたり、さもラブホが初めてであるかのような芝居でもしてくれたら、私は鞄から縄を取りださなかったかもしれません。実際はその逆だったので、私はことを起こしました。
「真優、裸になってベッドに上がれ」
「え?」
「バスローブ取れ」
「ムードがない人ね」
「ムードがないのはそっちだろう」
私は喧嘩を売るような仕草でバスローブを取ると、彼女をベッドに倒しました。柔らかそうな乳房が揺れ、若草が生えた恥丘があらわになりました。そのとき強烈な性欲が来ましたが、私はひと呼吸おいて縄を取りだし、彼女の体を緊縛したのです。
「私、こんな趣味ないわよ」
「縛らせろ」
手と胴体を固定し、余った縄で両脚を緊縛し、身動きできなくしました。
「痛い……やめて、もう」
乳も性器も生意気でしたが、私はそのときふと、彼女を征服した気になりました。
今になって思います。
私は生意気な彼女を痛い目に遭わせてやろうと緊縛を思い立ったのではなく、勝気な上に性経験が豊富な彼女と寝ることが怖くて緊縛したのではないかと思います。
快楽でなく、とりあえず苦痛を与えることで彼女を征服しようとしたのかもしれません。
SMが好きな男は、女が怖いのかもしれません。
私は身動きの取れない彼女の身体を弄び、セックスに耽りました。
決して上手ではないセックスでしたが、少しも引け目を感じませんでした。
SMはこうやって始まるのですね。